【記事】「ホワイトボード・ミーティング」で在宅ケアの問題解決を

 

「コミュニティケア」(株式会社日本看護協会出版会)に掲載された記事をご紹介いたします。
(奥西春美 株式会社ひとまち・看護師)

PDFファイル在宅ケアの問題解決(コミュニティケア)

ホワイトボード・ミーティングは、ホワイトボードに参加者の意見を記し、議論を可視化しながら進めるワークショップ。参加者の力がいかされる効率的・効果的な方法です。その実際を報告いただきます。

多様・複雑化する在宅ケアの問題
「日々、時間的にも精神的にも余裕を持てずにいること、同僚と会話や雑談をしたくてもできていないことがストレスになっていたと気づきました。コミュニケーションを通して心を温めあう。そういう職場の土壌が、利用者さんの支援をいいものにするんだと思います」。

これは、「ホワイトボード・ミーティング」を体験した参加者の感想です。

地域ケア、在宅ケアの問題解決と一口にいっても、現場の問題は組織そのものや日々の業務、あるいは個別ケアなど、多岐にわたります。多様化・複雑化する問題を、忙しい日々の中で解決するには、日常の会議やカンファレンスの質の向上が一番の早道です。会議・カンファレンスの中では、まず複雑で解決困難に思える事象に何が起きているのかを正しく把握し、問題を明らかにします。ひとりでは解決困難なことも、チームメンバーの多様な実践知を活用して視野を広げ、豊かな選択肢から問題を解決します。そのための手立てとして、ファシリテーションの技法の1つであるホワイトボード・ミーティングが有効です。

ホワイトボード・ミーティングとは
ホワイトボード・ミーティングは、ホワイトボードを使って意見やアイデアを集め、参加者の力を活かして問題解決を進める効率的・効果的な会議の方法です。
気軽な打合せから深刻な課題解決まで、ホワイトボード・ミーティングでは愚痴や不満も”貴重な意見”に変身するので、合意形成や具体的な行動プラン決定が可能です。役割分担をしながら困難に立ち向かうため、メンバーやチームがエンパワーされて元気になる会議の進め方です。2003年にちょんせいこ(株式会社ひとまち代表取締役)が開発し、医療・福祉・行政・教育など多様な地域や領域で取り組まれています。

特徴は、以下の通りです。

①ホワイトボードで意見を可視化しながら進める
②進行役を”ファシリテーター”、参加者を”サイドワーカー”と呼ぶ。どんな意見も要約せずにファシリテーターが書く。書くことは意見の承認と同義である
③オープン・クエスチョンで深い情報共有を進める
④話し合いが”発散”→”収束”→”活用”のプロセスを経ることで構造化され、具体的な結論や行動計画が決まる
⑤6つの会議フレームがあり熟練したファシリテーターは、これらを組み合わせて使う

私は、これまでホワイトボード・ミーティングを活用したワークショップを、在宅ケアの現場で開催してきました。中でも、スタッフのアセスメント技術を高め、多職種連携で問題解決をするのに有効な「ホワイトボードケース会議」について紹介します。

<参考>
会議フレーム① 定例進捗会議
会議フレーム② 役割分担会議
会議フレーム③ 企画会議
会議フレーム④ 情報共有会議
会議フレーム⑤ 課題解決会議
会議フレーム⑥ ホワイトボードケース会議


ホワイトボードケース会議の進め方

開催までの準備
準備物は、たくさんの情報を可視化するため、ホワイトボードを2面以上、黒・赤・青のホワイトボードマーカー、そしてオープン・クエスチョンの書かれた「ホワイトボード・ミーティング質問の技カード」です。事前に参考図書(「元気になる会議 ホワイトボード・ミーティングのすすめ方」解放出版社、ちょんせいこ著)などを活用し、まずは2〜3人の仲間で集まって練習をします。詳しいケース記録があると良いですが、ホワイトボードケース会議は参加者がもつ情報を集めることで十分に機能する方法です。その意味では、従来のカンファレンスに比べて準備時間が短くて済むのが大きな特徴です。

ワークショップ開催冒頭に行うペア・コミュニケーション
ワークショップでは、開催の冒頭にチェックインやアイスブレイクなどを用いて、ゴールの共有化を図り、参加者の相互理解を深めて緊張を緩和するパートがあります。ペア・コミュニケーションはそれらの機能を果たしながら、コミュニケーションの成功体験を積む活動です。いきなり大勢の前で意見を表明するのが苦手な人も、隣の人がウンウンと相槌を打ちながら聞いてくれると、大抵は安心して話すことができます。できるだけいろいろな参加者の組み合わせで実施します。テーマは、自己紹介や近況報告が中心です。

例えば集合研修のような場面では、「どこから来たか」「今日1日、研修に参加するまでどんな仕事をしていたか」など、初期はできるだけ話しやすいテーマでウォーミングアップをします。誰でも話せて場が温まり、その後のプログラムとつながるかの視点でテーマを考えます。ジャンケンで勝った人から話し始めるなどのルールを設定すると、グンと話しやすくなります。楽しい話がたくさんできるチームは、困難な課題についても話し合えます。ホワイトボードケース会議の最中に意見が出にくくなった時にも、「この利用者さんについて知っていることがあれば、隣の人と話してください」とペア・コミュニケーションを活用します。疑問、質問も含めて話題になり、カンファレンスが活性化します。

ホワイトボードケース会議の実際
多職種で行なうメリットは、お互いの個性・専門性・職業的アイデンティティを理解でき、職種間での役割の明確化、あるいは共通部分が見えてくることです。事例検討を行うホワイトボードケース会議では、参加者全員でホワイトボードに情報を書き出して可視化し、「ホワイトボード・ミーティングアセスメントスケール」(以下、アセスメントスケール)を活用することで、事例の当事者への理解を深め、効果的な支援を導き出します。繰り返すとチーム力が向上するので、多職種連携や包括支援などに有効です。事例は参加者の習熟度に応じて選定します。不慣れな場合はあまり複雑、深刻でないものからスタートします。ファシリテーターはダミー事例で繰り返し練習することも、技術アップに有効です。事前準備は特に不要で、事例検討のためのフォーマット(主訴、家族関係、病歴などの定式化された情報の枠組み)も不要です。

ファシリテーターは、事例提供者からインタビューのように話を聞きます。「どんな感じですか?」「なんでもいいですよ」「もう少し詳しく教えてください」「エピソードはありませんか?」と深めながら、情報をホワイトボードに書き貯めていきます。発散で情報を出した後、収束では、「ホワイトボード・ミーティングアセスメントスケール」(以下、アセスメントスケール)を活用することで、事例の当事者への理解を深め、効果的な支援を導き出します。繰り返すとチーム力が向上するので、多職種連携や包括支援の推進などに有効です。事例は参加者の習熟度に応じて選定します。不慣れな場合はあまり複雑・深刻でないものからスタートします。ファシリテーターはダミー事例で繰り返し練習することも技術アップに有効です。事前準備は特に不要で事例検討のためのフォーマット(主訴・家族関係・病歴などの定式化された情報の枠組み)も必要ありません。

開催の効果
株式会社アットホーム訪問看護ステーション・居宅介護支援事業所・デイサービス・サービス付き高齢者向け住宅のスタッフと提携診療所のスタッフが集まって、ホワイトボードケース会議のワークショップに取り組みました。ファシリテーターによって、利用者の日常の情景が共有され、ホワイトボード上で可視化されます。アセスメントスケールで明らかになった利用者やケアチームの困り感・強みがプロセスを踏むごとに明確になります。看護職・福祉職・ケアマネジャー・調理員・事務職などみんなで意見を出し合います。前提にあるのは、”どんな意見も大切する”ということ。自己の考えも他者の考えも承認し、融合させ、多様な選択肢を見出していきます。討議ではなく、対話を重視します。そして、その場の状況そのものが、同じテーマを共有する一体感を育むコミュニティ体験となります。

参加者からは「こんな大人数でもみんなで考えられたのが、すごい!」、事例提供者も「みんなに考えてもらって、明日から頑張ろうと思えた」「これからはもっと相談してみようと思う」といった声をいただきました。最初は遠慮がちな参加者も、ホワイトボードで情景が共有されると、職種を超えて「あー、わかる、わかる」と納得でき、参加者の中にある実践知が呼び起こされます。「私のところにも似たような人がいて・・」と自分に引き寄せて支援策を考えたり、職種を超えた多様な意見が出されたりするのが特徴です。

終わりに
ホワイトボード・ミーティングのファシリテーションはスキルです。だから、練習すれば誰もができるようになります。練習によってスタッフが承認しあい、相談しやすい土壌が培われます。私たちには日頃培った聞く力とこれまで経験したエピソードがたくさんあります。それらを活かせば、チーム力や課題解決力も上がり連携が強化されます。

多職種でも1つになれる!参加者の対話を促す安心空間

吉本草蔵(株式会社アットホーム 訪問看護ステーション高槻副所長・看護師・保健師)

株式会社アットホームでは、看護師・ヘルパー・ケアマネジャー・精神保健福祉士・事務員・就労支援相談員・グループホームの生活支援員など、様々な立場の人が、日々工夫を重ねた実践を行い、利用者への熱い思いを持って働いています。ケア現場では、迷ったり悩んだりすることが多いため、職員同士が”心の体力”を温め合い多様な声が響き合う場所が必要です。これを目的として、私は企画段階から研修に携わりました。

コミュニケーションを深める技に感動
社内の延べ100人が参加する研修の企画が可能なのかと最初は不安でしたが、企画者グループでホワイトボード・ミーティングを行うと、楽しく具体的な意見が交換でき、役割分担もスムーズにできました。話をすること、すなわちコミュニケーションは、人に本来備わっている能力ですが、意識して深める技術でもあることに改めて気づきました。

ホワイトボードケース会議では、多職種が多くの声を出してくれました。そこで思ったのは、まず、ケアを行っているのは自分一人ではないということ。仲間がいて、共に利用者の幸せを願っていることを理解しました。また、皆、自分の仕事が好きでたまらないことが伝わってきたのが、とても嬉しかったです。

“対話が弾ける場”で感じた仲間とのつながり

ホワイトボードケース会議は”対話が弾ける場”で、きわめて音楽的な空間でした。ファシリテーターが作り上げた安心空間に、参加者自身がそれぞれ楽器となって音を奏で、まるでオーケストラのようでした。参加者は確かな技術を持つファシリテーターの問いと導きに触発され、個々の思いや体験を自由に語ることができました。利用者のこれまでの人生や、広くて深い海のような内的世界が、ホワイトボードに丁寧に描かれていく様は感動的でした。一人の人に寄り添うことの大切さを改めて実感し、利用者や仲間に対する思いやりとやさしさを、みなで共有することのできる時間でした。

「コミュニティケア」(株式会社日本看護協会出版会・2016.8)