【記事】医療者と患者が協働するチーム医療を実現する

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浦山絵里さん(ナースファシリテーター)

 

ナースファシリテーターとして

「看護師の仕事は、そもそもコミュニケーターであり、ファシリテーターです」。そう語る浦山絵里さんは、全国の病院や医療教育の場でナースファシリテーターと名乗り、ファシリテーションの普及に取り組んできた第1人者だ。ここ数年は、ホワイトボード・ミーティング® を取り入れた研修が増えてきた。「医療現場には、患者の意思決定を支援する場面があります。医療者の前では患者は萎縮してしまう。そんな時、ホワイトボード・ミーティング® の技術を使って話を聞くと、本人の意思決定にしっかりと寄り添うことができるのです」とその効果を語る。ホワイトボード・ミーティング® は、まず、問いがシンプルだ。「ホワイトボード・ミーティング® 質問の技カード」に沿って聞くだけで相手の思考を生み出せる。発散、収束、活用のプロセスで自己決定へと辿り着く。「ホワイトボード・ミーティング® は患者に寄り添えるシンプルなファシリテーションの型だから医療者向け。そして誰もが習得しやすいのが魅力」である。

 

チームケアのスキルとして

有効なのは患者との関係だけでない。これからの医療は、ますます地域包括を含めた多職種協働によるチームケアが求められる。一人の患者を別々にではなく、保健・医療・介護・福祉のスタッフが有機的に連携し、患者を支える地域コミュニティとも共に歩む。例えば、救急車で搬送された急性期の患者も、最初に退院後の生活までを見通しておけば、早い段階からリハビリテーションやソーシャルワーカーがかかわれる。患者のQOL(クオリティオブライフ)を高めるために急性期、在宅期、終末期を支えるスタッフが集って話す場に、ホワイトボード・ミーティング® があれば多職種協働が機能する。春には医療系大学の1年生200人を対象にしたIPE ( 専門職連携教育) で参加型授業を実施。ここに3年間ホワイトボード・ミーティング® を取り入れた。看護師、理学療法士、作業療法士、放射線技師をめざす学生が集まって未来の多職種協働に必要な力をつけるプログラムだ。「チーム医療に大事なことは?」「リーダーシップとは?」。ホワイトボード前に集って大学生が話し合う姿を観ていると希望が生まれる。この風景を医療現場の日常にしたいと思う。

 

看護師としての原点

子どもの頃から体が弱く虚弱児だった。幼稚園は半分くらいしか通えず、自分の調子の悪い時、話をよく聞いてくれた看護師が大好きだった。親戚には医者も多かったので、医療者の存在を身近に感じて育ってきた。看護師としての原点は、初めての臨床実習の体験だ。受け持ちは腎臓がん末期の男性で、ベッドから足がはみ出そうなくらい背が高く、父と同年代。痛みに苦しむ姿になす術もなく、できることと言えば、付き添う家族の話を聞くことだけで無力を感じていた。そこへ担当教員が熱いお湯とタオルを持ち込んで蒸しタオルで背中を温めて、男性の足や手を温浴しながらマッサージを始めたのだ。しばらく続けていると、痛みに苦しんでいた男性がグーっと深い眠りに入っていく。その姿に家族も驚いた。「熱いお湯とタオルだけで、こんなに寝てもらえるなんて。看護って手当てなんだ」。後に、ご家族から「あの時、ゆっくりと眠らせてくれてありがとう」の言葉をいただいた。「忘れちゃだめよ」とその教員に言われたのが、大切な看護の原点となった。

 

ホワイトボードケース会議で現場を元気にしたい

今、特に医療現場に広げたいのは、ホワイトボードケース会議だ。この方法でカンファレンスをすれば、困難なケースの中にある事実が見えてくる。どうにもならないゴチャゴチャの状況も因数分解のように整理されて、スパンと真実に向き合えるようになる。誰もが発言しやすくなり、アドバイスも伝わりやすい。誰も傷つかず、患者やスタッフの強みが見えてくる。みんなの力や技能を活かし合える会議フレームだから「医療現場にホワイトボードケース会議を広げたい」。そうすれば、看護師が元気になる。人も組織も育つ。そして何より、患者や家族が幸せになる。誰もが元気になる医療現場をめざすナースファシリテーターとして、浦山さんは今日も全国を駆け巡っている。

浦山絵里(東京都)看護師。杏林大学医学部付属病院看護師長を経て、ファシリテーターとして独立。全国の医療現場や看護教育でファシリテーションの普及に取り組む。また、医療以外の場面でも活躍。ホワイトボード・ミーティング® 認定講師。

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