宝楽陸寛さん(NPO法人SEIN事務局長)
「かわちながの世界民族音楽祭」
真っ暗な舞台にうすいライトが差し込み、鈴音のような鳴き声がホール全体を包み込む。「かわちながの世界民族音楽祭」のスペシャルステージは、3000 匹の鈴虫の合唱で幕を開けた。河内長野市文化振興財団(ラブリーホール)と市民が協働し、ワールドミュージックのアーティストらと作り上げるコンサート。宝楽陸寛さんは、2015 年9 月に開催された同音楽祭で企画運営委員会の代表を務めた。地元の資源や環境を活かした音楽祭をめざし、準備の段階から市民やアーティストが対話をつみ重ねた。自然豊かな土地を表現するため、「山を鳴らしたい」と語るアーティスト。プロフェッショナルの思いをかたちにするのもまちづくりファシリテーターの仕事だ。製材所や各専門家の協力のもと、「丸太のマリンバ」や「奥河内の三弦」など新しい楽器がいくつも誕生した。それらを奏でるワークショップを経て、音楽祭では総勢約100 人の大オーケストラが演奏を繰り広げた。アーティストとリハーサルを重ね、市民がステージに上がったのは音楽祭初のチャレンジ。コンサート本番、宝楽さんは舞台袖で見守った。そして企画構成からプロデュース、ボランティア運営まで、様々な会議でファシリテーションを駆使して、大イベントを作り上げた確かな手応えを、みんなで分かち合った。
ファシリテーションとの出会い
学生時代から、イベントやボランティア運営に積極的に関わった。「なんで古い体質を変えないのか!」と大人たちに迫る、威勢のいい若者だった。でも会議はうまくいかず、話が進まない。「失敗体験ばかりだった」と当時を振り返る。そんな折、湯川まゆみさん(NPO 法人SEIN 代表理事)の紹介で「まちづくり講座」を受講した。それがホワイトボード・ミーティング® との出会い。23 歳の時である。自己選択と自己決定。ファシリテーターのいるボトムアップで進む会議。参加者に対等な関係と対話が育まれる場。「そうか、これや!」と思った。以降、ホワイトボード・ミーティング® を精力的に学んで実践。とにかく、何にでもがむしゃらな青年だった。現在は、NPO 法人SEIN で事務局長を務める。「仕事はNPO や市民を応援するまちづくりファシリテーター」と宝楽さん。会議だけでなく、助成金の申請や法務局に出す書類の相談に乗ったり、会計セミナーを開いたり。地域に飛び出し、いろいろな支援や協働の形をつくり出している。
対話を重ねて
地域を活性化する事業運営にも力を入れる。高齢化や人口減少などの問題に直面する大規模ニュータウンでは、地域住民と行政、大学、企業による再生と地域活性化の取り組みが進んでいる。まち開きから33 年目を迎えた南花台は、河内長野市と関西大学が連携するまちづくりモデルの一つ。地域資源の活用が課題だったこのまちに2015 年秋、住民の拠点「コノミヤテラス」がオープンした。スーパーの空き店舗を利用したスペースで、近所の人たちが囲碁を打ったり、体操したり、お茶を飲んだり。夕方には子どもたちが宿題をしにやってくる。みんなの憩いの空間ができたのだ。宝楽さんは、市や大学と協働し、会議や地域ワークショップのファシリテーターとしてプロジェクトに関わった。例えば、「健康・生きがい・子育て・情報発信」をキーワードにしたワーキングチームづくり。様々な立場からの声を集め、対話を重ねて具体化する。そのプロセスの一翼を担った。ここでもホワイトボード・ミーティング® が効果的に機能した。朝一番にラジオ体操の音楽が流れるコノミヤテラスは、今、多くの人が訪れ、まちを元気づけている。
まちづくりファシリテーターの輪を広げたい
まちづくりには「対話」が欠かせない。地域のこれから、そして今困っていることを出し合い、方向性を共有しながら、住民と行政が一緒に歩んでいく。大きなプロジェクトでは幾度も山に当たる。会議の雰囲気が険悪になり、メンバーが自信をなくすこともある。でも大丈夫。ファシリテーターは自分を信じ、参加者を信じて、一緒にたくさんの山を越えていく。大事なのは対話だ。その近道のひとつがホワイトボード・ミーティング®。話し合いを深め、可視化するので、合意形成が効果的、効率的にできる。まちづくりを進める上で、十分な武器になる。愛娘はもうすぐ3歳。彼女が大きくなった時、子どもから高齢者まで皆が希望を持って生きていけるまちにしたい。ホワイトボード・ミーティング® で、幸せなまちづくりを進めたい。その仲間を増やすべく、今日も奔走している。