【記事】お客様の期待に応えるお店づくりをめざして

ホワイトボード・ミーティング®でチームワークを育み
お客様の期待に応えるお店づくりをめざして〜書店編


 
 

厳しい書店業界と書店員の役割

最近、あるニュースが書店業界で話題になりました。日本の大学生の読書時間が1日0分である割合が、49.1%に達したのです。(2017年2月・全国大学生活協同組合連合会「第52回学生生活実態調査の概要報告」)若者の読書離れがさらに深刻化することの懸念や、情報を得る媒体が多様化している現在、書店を取り巻く環境はとても厳しいと言わざるを得ません。しかし、そんな状況にあっても「紙の本」との出会いを演出し、読者の生活に何らかの発見や希望を届けるのが「書店員」の役割だと思います。私もそんな書店員のひとりとして、大阪市内にある大型書店に勤務しています。
 
 
書店員の仕事はとてもハードです。1日におよそ100点は刊行される本を仕分けて、店頭に並べる作業から始まります。重い本を抱えての移動は重労働で、腰痛は職業病と言えるでしょう。そして、単純作業のように見える本の配置、展開方法、発注などは、実はとても計算されたものです。だから正解もあり、不正解もあります。その計算を繰り返すうちに、職人的な「勘」が育ち、自分なりの正解がわかるようになります。
 
 
このような職人気質な書店員が育つのは、店の個性を出し、ファンをつくる上で、本来は歓迎されるべきです。しかし、困ったこともあります。自分のやり方に固執するあまり、他人の助言を聞くのが難しくなり、仲が悪いわけでもないのに、自然と互いの干渉を避けるようになることもあります。要はコミュニケーションがうまくいかなくなるのです。そんな限界を感じていました。そして「書店員が協働できるいい方法はないか」とずっと探していました。
 
 

書店現場にファシリテーション、ホワイトボード・ミーティング®

「書店員の協働」を考えるときに、他にも疑問がありました。「人件費削減」が至上命題とされる現場において、主な戦力はアルバイトです。彼らもまた、書店で働く以上「書店員」ではありますが、職人気質な書店員にとってアルバイトとは「自分の思い通りに動いてくれる人=いいアルバイト」と思いがちです。ですからついつい、このようなつぶやきが出てしまいます。
 
「やる気がない」
「きつく言うとすぐ辞める」
「指示待ちだ」などなど。
 
しかし、本当にアルバイトたちは「やる気」がないのでしょうか。そんな疑問を持ちながらも、自分も同じようにつぶやいている矛盾も感じていました。そのような時に出あったのがホワイトボード・ミーティング®という会議手法だったのです。6年前のことです。
 
 
実は、書店にはあまり会議らしい会議はありません。私が勤務してきたお店は、ちょっとした打ち合わせも少なく、会議の経験は乏しいものでした。しかし、みんなが力を合わせるためには、意見を出し合って合意形成し、課題解決する会議の場が必要です。ホワイトボード・ミーティング®開発者のちょんせいこさん(株式会社ひとまち代表)のセミナーに参加した私は、そう感じました。効果的な会議手法を学ぶにつれ、「とにかく、やってみよう」と決意しました。
 
 
早速、店舗全体で取り組もうとしました。前段階として、スタッフの良いところを探して可視化する取り組みをしたところ、好感触でスタッフのモチベーションも上がりました。続けて、会議の場を設けようとしましたが、実現しませんでした。前述したように、もともとミーティングなどで話し合う風土がなく、人が集まることが難しい書店現場はトップダウンの歴史を積み重ねています。業界的にも馴染まないのです。上手くいきませんでした。
 
 
そこで、まずは担当する棚チームで月に1回、学生アルバイトを含めた3、4人でホワイトボード・ミーティング®をスタートしました。それも、最初はミニホワイトボードを活用した、簡単な意見交換から。やってみると、意外な発見がありました。入りたての学生アルバイトも「こんな仕事がしたい」「私は仕事をする時、こんなことを大事にしている」という意見が出たのです。「やる気がない」と、心のどこかで思い込んでいた自分が恥ずかしくなりました。
 
 

ミーティングで人が育つ仕組みづくり

みんなに「やる気」があるとわかったら、それを「承認」して応援すればいいチームが作れる。そう確信した私はホワイトボード・ミーティング®の基本フレームである「定例進捗会議」や「課題解決会議」を使って、アルバイトのやりたい仕事を実現するプロセスづくりに取り組みました。環境が整えば、こちらが思っている以上の力を発揮してくれます。最近は「情報共有会議」をよく使います。曜日も時間帯も違うスタッフが、どんな仕事を進めているのか、みんなで共有するのにとても便利な会議フレームです。
 
 
ミーティングにはゲストを呼ぶこともあります。他店の書店員や、出版社の営業担当者、取次担当者などです。人選のコツは「身近な人で、ちょっと背伸びをしてマネしたくなる人」。ゲストの話は、新しい視点で自分の仕事を見つめ直すいい刺激になっています。
 
 
このようなマネジメントを繰り返すうちに、アルバイトのモチベーションは上がり、放っておいても自律的に動いてくれるようになりました。そうしている内に変化も起き「どんなアルバイトも3ヶ月しか続かない」と話していた学生が、2年近く勤務しています。楽しそうに働いている様子をみると私も嬉しくなります。棚の売上もチームの頑張りで安定してきました。
 
 

効果的なマネジメント「ホワイトボード・ミーティング®×書店」

ホワイトボード・ミーティング®は進行役をファシリテーター、参加者をサイドワーカーと規定します。オープン・クエスチョンを使って一人ひとりの意見を拾い、ホワイトボードに書き出して、発散、収束、活用のステップを踏むと、全員の意見で合意形成や課題解決が進むスキームになっています。話しあいの中で仕事上の困りごとをチーム全体で共有し、豊かな対話をベースにチームワークを育むのが大きな特徴です。中でも私が気に入っているのは、メンバーの強みを生かすチームマネジメントだということです。
 
 
ホワイトボード・ミーティング®には「エンパワーの法則」という考え方があります。人が成長するには、まずは失敗ゼロの環境を作ること。そして、小さな成功体験を積み重ね、やがて大きな飛躍にチャレンジをする。気がつけば、私はこの法則で自分のマネジメント法を確立していました。でも、まだまだ、序の口で、スタートしたばかりです。
 
 
ゴールは、お客様にご満足いただける書店づくり。そして、売上に貢献できるチーム作りです。従来の書店員のマネジメントは「個ががんばるマネジメント」でした。これは冒頭に説明した「書店員の特性が作り出す気質」によるものです。しかし、ホワイトボード・ミーティング®を導入すれば、アルバイトも包括して、一人ひとりの強みを活かすマネジメントができます。その要になるのがファシリテーション技術です。出版業界が全体的に元気のない今、ひとりでも多くの書店員にホワイトボード・ミーティング®を届け、業界を盛り上げたい。そして「紙の本」の良さを多くのお客様に味わっていただきたい、そう考えています。(書店員 野坂匡樹 ホワイトボード・ミーティング®認定講師)
 
 

野坂 匡樹
書店員として店舗責任者や海外店舗マネージャー等を経験する。その勤務経験を活かし、出版業界や接客業においてワークショップを展開する。ホワイトボード・ミーティング®やファシリテーションを活かした社員のモチベーションアップや企画づくりを得意としている。本が好きで、本のある暮らしや仕事のプロデュースに携わり、絵本のファシリテーターとしても活動中。