【記事】高齢者の暮らしを支える 技術を磨く

funakoshimini船越綾子さん(主任ケアマネジャー)

 

進む高齢化

2025 年、日本の高齢化率は30%に達する見込みだ。人生のラストランを「自分らしく生きたい」と願うことは私たちの基本的な欲求であり、年々、超高齢社会へと加速してきた町には、そんな願いと暮らしを支えようと、多くの介護職員が笑顔で汗を流している。その中のひとり、船越綾子さんは兵庫県の介護施設で、高齢者の暮らしを支える仕事に携わってきた。現在は、自宅で暮らす高齢者をチームで支えるケアマネジャーとして働いている。介護が必要な高齢者や家族のニーズを聞き、現状をアセスメント(分析)し、ケアプランを作成して在宅生活を支える要となるのがケアマネジャーの仕事だ。打ち合わせを含めて、連日多くの会議があり、その充実は必須である。職場のファシリテーション研修を受けて興味を持ったのをきっかけに、姫路市男女共同参画センターで開催された「チラシづくり講座」で、ホワイトボード・ミーティング® に出会った。
 

ホワイトボードケース会議の可能性

ホワイトボード・ミーティング® には6つの会議フレーム※ 1 があるが、なかでも船越さんが注目したのはホワイトボードケース会議だ。ケアプランを立てる時には、高齢者の身体状況や認知能力、生活背景など多くの情報を共有してアセスメントを進める。いかに情報を的確に集めるかが、その後の支援に大きく影響するのだが、ホワイトボードケース会議はこの情報共有が深い。高齢者の中には、認知症の症状も絡まって、周囲に強い拒否を示す人も少なくない。家族の協力が難しい場合もある。こうしたケースは支援者を悩ませるが、ホワイトボードケース会議で話し合うと「目からゴロッとウロコが落ちて、その人の中にある力が見えてくる」ことを体験した。思わず「なんで?」と思う行動も背景が理解できる。具体的な支援の方向性が見えてきて、次の1歩が明らかになる。そして、何より支援者が元気になると実感した船越さんは「ホワイトボード・ミーティング® アセスメントスケール」※2をペタッと自宅の窓に貼り、まずはA3サイズの紙をホワイトボードに見立てて、練習をスタートした。
 

何度も繰り返しやってみる

練習を重ねるうちに、ホワイトボード・ミーティング® アセスメントスケールが身体化する。困難な場面でも、高齢者や家族の強みが見えてくる。普段の面接も「ここが過刺激になっているから不安が強い」と分析しながら対応できる。年齢を重ねてできないことが多くなり、ご本人も周りも不安になるのはあたりまえ。だから「まずは失敗ゼロでいこう」とエンパワーの法則※ 3 でスタートする支援。「ホワイトボードケース会議を知ってから大きく変わった」と自身の変化を振り返る。気になるケースをA3サイズの紙に書き出して支援を確認してみた。①生命、身体の危険は回避できている。②③でご本人や家族のプレッシャーがわかり、④過刺激をたくさん見つけた。「どんな方法で過刺激を緩和したらいいのか」。他の専門職に紙を見せるとサッと状況を理解して、アドバイスをもらえた。多様なアプローチが見えて支援の可能性が広がる。この技術を共有すれば、専門職同士がそれぞれの視点で効果的に話し合えると確信した。

 

多職種協働を進めるために

おばあちゃん子として育った。高齢者にかかわりたいと働き始めたが、入浴や排泄介助のあまりにもの忙しさに驚いた。ゆっくり話すヒマなんてない。それでも、職員同士や高齢者とのコミュニケーションが良いときは大丈夫。しかし良好なコミュニケーションは自然発生しない。ホワイトボード・ミーティング® は、全く違う時代を生きて共通言語をもたない若い職員と高齢者の間にも豊かなコミュニケーションを育む。人生に寄り添うスキルでもあるのだ。だから、介護や医療、地域も含めての多職種協働にも機能する。地域包括ケアを推進する力になる。「これからホワイトボード・ミーティング® は、ますます求められる。でも、1回やればできるものではない。愚直な練習が必要」。広がれば、自分が高齢者になった時に安心だ。「わたしの強みや人生に寄り添ってくれる支援者が増える。みんなが幸せに暮らせる」。だから、いろんな人の知恵や工夫、専門性を活かすツールとして広げたい。船越さんのチャレンジは始まったばかりだ。
 

船越綾子(兵庫県在住)主任介護支援専門員。ホワイトボード・ミーティング® 認定講師。介護保健老人施設ハーモニー園でケアマネジャーとして働きながら、地元の播磨地区で仲間と一緒に、ホワイトボード・ミーティング® の勉強会を開催。